Texture of Bentley Blackline Matrix grille
Front view of Bentley Flying Spur Speed in Orange Flame colour featuring Black gloss matrix grille and Illuminated Flying ‘B’ radiator mascot – bright polished stainless steel.

独創的な作品の数々

微細な変化も見逃さない、ベントレー社内の精密計測チーム

ベントレーの英国チェシャー州クルーの工場の中央奥深くには、大きくて風通しがよく、空調が完備された作業場があります。関係者以外の立ち入りが禁止されています。ここには、宇宙機関の施設や大学の科学研究室で見られるような精密機器が所狭しと並んでおり、ここで計測担当責任者のマイケル・ストックデールと25人の同僚が、ベントレーの様々な部位を、最高水準の精度で計測しています。

Close up of Bentley jewel cut full LED headlamps.
Detailed view of Illuminated Flying ‘B’ radiator mascot – bright polished stainless steel

フライングBの正確無比な振り付け

複数の構成部品をあらかじめ組み立ててから車両に取り付ける場合、最高水準の寸法精度で計測し、同じ精度で実行することが極めて重要です。例えば、フライングスパーのボンネットを飾る格納式のフライングBマスコットは、一連の複雑な動きを構成する各コンポーネントが一貫した寸法精度で近接しているためスムーズに展開・格納されます。このマスコットは、ドライバーが車両に近づくとキーレス・エントリー・システムと連動してライトアップされますが、事故の際は自動的に格納されなければなりません。この正確な振り付けを実現し、台座の中央にきっちりと収まるようにするため、フライングBシステムの各部品の公差はわずか0.15mmとされています。

Engine Turned Aluminium – Dark Tint veneer finishing.
View of Bentley's W12 6.0 litre twin turbocharged engine installed in vehicle, Bentley Flying Wings Badge in view.

赤血球ひとつよりも小さい誤差

一般の人は「髪の毛一本の太さ」という言葉を、想像できる最も小さな尺度の単位として使いますが、ベントレーの計測チームにとって、この言葉はあまりにも曖昧です。ストックデールが指摘するように、人間の髪の毛一本は17ミクロン~150ミクロン以上の太さになることがあります。一方、計測部門では0.5ミクロンまで測定可能な機器が使用されています。

 

1ミクロンは1メートルの100万分の1であり、人間の赤血球の直径は5ミクロンです。ベントレーのコンポーネントすべてを1ミクロン未満の誤差で計測する必要はありませんが、一部には、そのレベルの精度が求められる箇所もあります。

 

ストックデールは、一例としてベントレーの新型フライングスパーに動力を供給する世界で最も先進的な12気筒エンジンである6.0リッターW12エンジンの心臓部にあるクランクシャフトを挙げています。最高6,000rpmで回転するクランクシャフトは、ピストンが発生させる巨大な下向きの力を回転運動に変換して車輪に動力を与えます。肉眼で見ることは出来ませんがランクシャフトを支える12個の機械加工されたベアリング・ジャーナルのそれぞれの表面には微細な溝が刻まれており、顕微鏡レベルの薄さのオイル膜を保持しています。

 

計測チームは高精度のパーソメーター(表面仕上げを計測するためのツール)を使用して、これら微細な溝が規定の誤差内に収まっていることを確認しており、これにより各W12エンジンがオーナーの期待する強大なパワーを生み出し、耐用年数を通して高い耐久性が保証されているのです。

Detailed view of diamond quilt pattern set in Portland Hide.
Rear side view of Bentley Continental GT Speed W12 in Orange Flame colour under fabrication process in production line.

アルミ無垢材から削り出されたフライングスパー

計測チームは、顕微鏡レベルの精度で個々の表面や構成部品を計測するだけでなく、車両全体を計測します。この部門には「キュービング」と呼ばれる基準車両があります。これは、無垢のアルミニウム材から削り出された模型であり、車両全体のパネルや内装のコンポーネントを計測する際のテンプレートとして使用します。キュービングのフライングスパーは、高精度のデジタルカメラを使用してボディを1ミリ単位でスキャンし、車両の完全かつ正確な地図として作成された理想的なフライングスパーであり、他のすべての車両の計測基準となります。

 

ストックデールは次のように解説しています。「試作段階でグリルとボンネットの間のパネル間の隙間が1mmも過大であるという問題が発生したとします。原因はグリル側にあるでしょうか、それともボンネット側でしょうか?キュービング基準車両はCADデータの正確な寸法に合わせて作られているため、その答えを提供してくれます。」

Close up of Bentley jewel cut Diamond patterned full LED headlamps.
A Bentley technician working on compound microscope.

光学レーザーでスキャン

素材が異なれば計測技術も異なります。フライングスパーのドアやリヤ・クォーターパネルに施された独自の立体的な3次元ダイヤモンド・キルト・レザー・インサートは、表面に触れてしまうと読み取りの際に歪みが生じるため、接触型の機器では計測できません。その代わりに光学レーザースキャナーを使ってダイヤモンド・パターンのひとつひとつの正確な輪郭をチャート化してチェックします。

 

フライングスパーのキャビンでは、全シートに多彩な機能が搭載されているという点が、設計における新たな挑戦となりました。リヤ・シートだけでも14段階の調節ができ、5種類のリラクゼーションモードを備え、ドア側の2つのシートにはヒーターとベンチレーションが装備されています。ワンピース式ヘッドライニングの違和感のないフィット感に始まり、ウッドトリムや豪華なレザー内装に至るまで、木材、金属、繊維と皮革など、多様な素材に求められる精度の高さがインテリア全体の完成度に大きな影響を与えているのです。

Detailed close up of Dark Côtes de Genève
Detailed view of Precise temperature measuring device in Bentley Metrology lab.

精密な温度管理

部品は、暖まると膨張し、冷えると収縮するため、一定の基準温度下で計測することが不可欠です。計測エリア内では、空調機器により20℃の安定した温度に保たれています。しかし、最高レベルの精度が求められる構成部品の場合は、高精度計測エリアと呼ばれるエリアで専用の空調システムによって温度が0.5度以上変動することがないようにしています。このエリア内には3つの巨大な花崗岩ブロックがあり、正確に読み取り不可欠な究極の安定性を実現するため、部品を固定します。その前に、計測する構成部品を文字通り大気中に晒しておかなければなりません。ストックデールはこのように説明しています。「エンジン・ブロックのような大きな構成部品は、その中心部分まで20℃になっていなければいけません。そのため1週間にわたって一定の温度下に晒さなければならない場合があります。」

Close up view of Grey stone texture.
A 3D Coordinate measuring machine, with probe set to measure dimensions of engine block.

目に見えない貢献

クルー工場を訪れるビジターが、計測部門まで足を運ぶことはまずありません。また、フライングスパーやコンチネンタルGT、ベンテイガのオーナーが、自分の車に使われている計測チームの精緻な仕事について口にすることも、きっとないでしょう。しかし、ベントレーの外観、性能、耐用年数は、それぞれの構成部品が理想的な精度で計測されているかどうかにかかっています。そのため、計測チームは寸法の完全性を追求し続ける隠れたヒーローです。一台一台のベントレーには、計測者たちの見えない仕事が息づいています。工場から出荷されるその瞬間に、彼らの技術と情熱へ静かな称賛が贈られているのです。